2003年に設立されたパンゲアは情報通信技術を利用してゲームやクイズなど遊びの活動で世界のこどもたちをつなげ、国家や人々の間の障壁を超えた理解の促進と平和構築の推進を試みている
Bv Margarel Apau
森由美子と高崎俊之はおもちゃのプロジェクトで命を落としかけた。ニューヨークでトイザラスと予定していた会議はほんの数日前に延期となった。フライトの予定は9月11日だった。
運命か偶然か、森は直前に予定を変更。翌日世界はツインタワーに追突する旅客機の映像に震撼し、森は圧倒された。「私は死んでいたかもしれない。」
その後長い間、森は飛行機に乗るのが怖かった。9.11の衝撃の後、米国への短い旅行で森は危機感を感じた。人々は互いの友人ではなく、外国人は恐れられていた。
「何人だからどう、という類型的な決めつけは怖いと思った」と森は思い出す。
おもちゃづくりは最優先課題ではなくなり、9.11についてなぜ、どうしてと考え続けた。
海外経験から、どこにでもいい人も悪い人もいることは分かっていた。「でもひとつの文化やある宗教を信じる人たちが変だとか悪いとかは言えない」と森は言う。
そのうち彼女の疑問は「こんなことが二度と起きないためにはどうしたらいいのか」になった。
「国防には何十億ドルも拠出される。なぜ平和構築にその0.1パーセントを費やさないのか」と彼女は問うた。
このことに気づいて後、彼女と高崎はユニバーサル・プレイグラウンドで世界のこどもたちをつなげるという全く違ったプロジェクトを開始した。
「こどもたちは文化の違いにかかわらずコミュニケーションをとることができます」と森は話す。
「2001年にはインターネットは開発されていましたが社会基盤として十分活用されてはおらず、人々は依然として距離に隔てられていました。インターネットは世界をひとつにすることができるはずなのに、なぜ。」
6年が経った現在では、日本、韓国、ウィーン、ナイロビ、サワラク(バリオ含む)がパンゲアの主要拠点となった。
2003年に設立されたパンゲアは情報通信技術を利用し、パンゲアネットと呼ばれるシステムプラットフォーム上で行われるゲームやクイズなど遊びの活動で世界のこどもたちをつなげている。
グローバル社会への理解と友好を推進するプログラム
セキュリティーへの配慮から、パンゲアネットサーバーへのアクセスはこどもたちが集まる活動時間中に限られる。
こどもたちがパンゲアで学ぶことは、財務諸表はおろか通知表にさえ書かれていないが、世界で最も重要なことだ。こどもたちは理解力を高め、国々や人々の間にある障壁をこえて平和を推進しようとしている。
「こどもたちには、同じ部屋にいなくてもつながりを感じて欲しいと思います」パンゲア理事長の森はクチンのTabiratとChung Hua 第一小学校の混成からなる緑チームが日本の緑チームのこどもたちとウェブカメラを通してあいさつしているのを見ながら語った。
「私たちは皆、多様化する社会をどのように生きることができるか自問しています。パンゲアを通して、こどもたちに優劣はないこと、皆それぞれ異なることは大切で、尊重すべきことだと理解して欲しいのです。」
サラワク大学は副学長のKhairuddin Abdul Hamid教授が新潟で森と高崎に会った後、2008年にプロジェクトに乗り出した。
Hamid教授は当時パンゲアに、サラワクの人々をつなぎ、世界の人々をつなぐ可能性を見た。
地元でもファシリテーターのFitri Suraya Mohamad博士は生徒たちの変化に気がついた。
パンゲアに参加するよう故意に離れた地域から学校を選んだが、最初はマレー語圏と中国語圏から来た生徒たちは互いに交わろうとしなかった。
「生徒たちは自分たちと異なる人種集
団に友達を持ったことはないと告白してくれました。それで最初に会ったときは少し内気になり、心配だったのです。」
それでもこどもはこども、気まずさはそのうちに消えた。今日ではこどもたちはお互いに慣れ、こども同士ならではのつながりを形成している。
「こどもたちは積極的にコミュニケーションをとれるようになり、そのうち言葉が通じなくても、絵を描いたり、お互いにサインを送るといった別の手段をとっていることに気づきました。」とFitriは語る。
パンゲアは異なる言語を一回の活動の中で教えることはできないが、こどもたちが意思疎通しやすいよう、ピクトンと呼ばれる絵文字を使っている。ピクトンの語彙はシンボルマークの表になっており、感情をあらわす顔の表情から色や天気まで様々だ。
森は異なる国々のこどもたちがどのように純粋なつながりを築いたかについて、多くの物語を知っている。しかしおそらく最も印象的なのはケニアの地震のニュースを見たある日本のこどものケースだろう。
「普通、こどもはただニュースを見て、その後、晩御飯の時間になるだけです。でもこの子はニュースを見て心配になりました。彼は校長先生にケニアの人たちは大丈夫だろうか、自分たちに何かできることはあるか、と質問しました。」と森は語る。
このように質問された校長は不可解に思ったが、いくつかのことを聞いた後、その子はパンゲアの活動を通してケニアのこどもと出会い、本当に心配しているのだと分かった。
「お互い会ったことのない相手に対しても、同じ国にいなくても、共感を感じられる能力を育てること、それが平和構築に向けたスタート台です。」と森は言う。
10年後には、全ての国がパンゲア基金を持つことを森は望んでいる。
「それぞれに独自のプログラムを開始して欲しいと思っています。優秀な技術者は世界にたくさんいますが、平和構築のための仕事をしていません。もし行動を起こすことに合意がとれれば、私たちは皆でこの世界を少し良くすることができるのです。」と森は付け加えた。
(翻訳:パンゲア)
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