平和技術の研究開発をミッションとするパンゲアは、言語と時間・空間の障壁を乗り越えて世界中の子どもたちが個人的コミュニケーションを確立するための「ユニバーサル・プレイグラウンド」を創造、提供してきた。
五大陸がひとつだったころの古代超大陸「パンゲア」のように、次世代を担う子どもたちはインターネットを用いたアクティビティでどんどんつながっている。
土曜日になると、学校も年齢も住む街も異なる9歳~15歳までの子どもたちが集まってくる場所がある。国内4カ所にあるパンゲアアクティビティの拠点だ。子どもたちは、アニメーションや写真、絵、音などの作品を作り、それをパンゲアネットと呼ばれる安全なネット環境の中で共有。絵文字を使って作品へコメントしたり、ケニアや韓国、オーストリアの子どもたちにメッセージを送ったりしながら、想像力や異なった観点から考える力、コミュニケーション能力を養っていく。世界に広がる多くの拠点間の安全な接続方法としてインターネットという情報コミュニケーション技術を活用し、自らもコンテンツ、ソフトウェアを開発する特定非営利活動法人パンゲア。組織が発足して9年、理事長の森 由美子氏は抱負をこう語る。「さまざまな環境の違いを超えて、子どもたちのためのプラットフォームを提供していくことが第一です。グローバルな活動展開がスムーズになった今、いろんな言語国や国内の拠点もどんどん増やしたいですね」。
2001年9月11日。その日マサチューセッツ工科大学の仕事でアメリカにいた森 由美子氏と、客員研究員をしていた、のちにパンゲアの共同創設者となる高崎俊之氏が乗るはずの飛行機がハイジャックされ、ペンシルバニアに墜落。仕事の日程がずれてフライト直前にスケジュールを変更したふたりは命拾いをした。その衝撃は大きく、直後のアラブやイスラムへの反応にふたりは危機感をもったという。同時にふたりが抱いたのは「未来を担う子どもたちが気軽に互いを知ることができたら、将来危険なものの見方が減るはず」という思い。やがて誕生したのは、世界中の子どもたちがまるで同じブランコに乗っているような、滑り台の順番を待っているような感覚で異文化や多様性を知り、興味をもち、コミュニケーションをとる「世界の遊び場」だった。パンゲアには、たったひとつだけのルールがある。「相手がいやがることはしない」。これは森氏と高崎氏から世界へ、未来への願いと祈りそのものだ。あるとき森氏はひとりの男の子の絵を見て、「ここには武器が描かれているけれど、ケニアの子が見たらどう思うかな。ケニアは日本のように安全じゃなくて、小学校に武器を持った人が現れて人が殺されることもあったんだよ」と問いかけ、男の子は素直に「ケニアの人は、怖がると思う。パンゲアルールでは人がいやがることだから、この絵はやめよう」と答えたという。このような出来事に立ち会えることが森氏の喜びであり、パンゲアの成果そのものだ。森氏は社会貢献についても語ってくれた。「自分の生活のなかで社会に役立つことを定期的にやりくりして動くことは、決して個人の時間がなくなることではなく、むしろ今以上に充実させる素晴らしいきっかけになると思います。忙しくて時間がとれない方でも支援したい団体があれば、何かのかたちでつながっていただきたい。国が動かないことでも踏ん張っているのはNPO、NGOです。どの団体も、『今の社会にはコレが必要だ!』という強い思いがあるからこそ、活動されていると思います」。
―パンゲアの遊び場に集まった子どもが成長したとき、彼らはまったく新しい捉え方で世界を見つめ、それが世界を変える力になるだろう。社会貢献が、未来を発信するのだ。
垣根のない「世界の遊び場」Universal playground
★特定非営利活動法人パンゲア★
平和技術の研究開発「ピースエンジニアリング」をミッションとする研究開発型NPO。世界、国内の拠点からインターネットをつないで、世界の子どもたちが出会い、伝え合い、つながることができる「世界の遊び場―ユニバーサル・プレイグラウンド」の研究開発および環境を提供。同時に、子どもたちのつながりを深めるためのコンテンツ、ソフトウェアを自ら開発し、新しい技術に対しても国内外の研究者、機関と連携。海外の活動拠点は、ケニア、韓国、オーストリアなど。国内では4拠点で定期的にアクティビティを行っている。2013年には、ケニアの国立博物館において、タンザニア、ウガンダの人々とともにアクティビティを実施する予定。
文=福井智子 text=Tomoko Fukui
写真提供=NPO PANGAEA