多言語システムを使って、世界5カ国から集まった子どもたちが「私たちが夢見るもの・こと」をテーマに、共同創作を行った。日本・韓国・ケニア・カンボジア・オーストリアの小中学生35人が夏休みの4日間、京都大学に集まり、作品制作のための討論を重ねた〈写真〉。主催したのは、京都市を拠点に活動するNPO法人パンゲア。子どもたちが国や言語の壁を越えて個人的なつながりを築く国際交流活動を進めている。サマースクールは、京大で広域情報ネットワークを専門とする石田亨教授の研究室と共同で、2014年から年1回開催している。
異文化交流の楽しさを知る
7人一組のチームに分かれて創作を行い、全員の前で成果を発表する。子どもたちが話す言葉は英語や韓国語、ドイツ語、クメール語など5言語。コミュニケーションに使われるのは、パンゲアが独自に開発した翻訳システムだ。各自に配備されたパソコンに自分たちの言語を打ち込むと、自動的翻訳され全員に意見が伝わる仕組み。絵文字で細かい気持ちや言葉のニュアンスも伝えられる。各自の発言回数はバーの長さで示され、全員が平等に意見を出す環境が生まれるよう工夫されている。各チームにはパンゲアスタッフが一人ずつチームリーダーとして参加し、討論がスムーズに進むよう手助けする。
色紙や布、コップ、電飾を使い、1㍍四方ほどの空間に「ひとつの世界」「夢の学校」など各チームの考えたコンセプトを表現する。最終日には「武器を持ってない人」がもらえるチケットをかざすと列車が動き出す作品や、人種差別のない大陸で人々が踊っている作品など、創意工夫を凝らした力作が完成。各チームが持ち時間の約5分間、全員の前で発表すると、翻訳システムに打ち込まれた「いいね」「楽しい」といった感想が、会場のスクリーンに次々と映し出された。
パンゲアの森由美子理事長は「言語や文化の違いを越えたコミュニケーションは可能であり、何より楽しいということを子どもたちに身を持って知ってもらいたい」と活動の趣旨を話す。NPO法人を立ち上げたきっかけは、01年9月の米同時多発テロ。ハイジャックされた飛行機に搭乗予定だった。直前にキャンセルしたことで助かったものの、その後、米国で台頭したアラブやイスラムへの反応に危機感を抱いた。「世界の子どもたちが顔の見える場所で交流する機会を持てば、周りから聞いていたイメージも変わる」と思い、03年にパンゲアを創設した。
4カ国23人で始めたサマースクールの参加者は年々増え、今年は東京や千葉、神奈川など、関西以外の国内各地から子どもたちが集まった。過去の参加者の中には、サマースクール終了後もメールでやりとりしたり、互いの国を訪れたりといった交流を続けている子どももいるという。
17年3月まで、今回の参加者同士でやりとりができる掲示板を設けた。来年のサマースクールは、パンゲアのホームページから参加を募る予定。また、通常活動として、東京・三重・京都の3都市で翻訳システムを使って海外の子どもと交流する1年間のプログラムを実施している。
(光永貴子=京都総局)